研究室での学生教育方針

学部

学部の活動では,教員の個人的な専門領域に捉われず,自由な発想で「好きなことを好きなだけ」をモットーに幅広く展開します.当研究室がこのような活動をする理由は2つあります.ひとつは,当研究室の専門領域がソフトウェア・計算・言語であり,今日では人間社会の活動の多くがこのいずれかに関連するからです.もうひとつは,卒業研究にはその時点での学術的な貢献が必ずしも必須ではないからです.これらのことから,当研究室では卒業研究を,新しい萌芽的な研究領域を切り拓くチャンスと捉えており,学生だからこその自由な発想を研究室の今後の研究活動に積極的に取り込みたいと考えています.本研究室では,そのために必要な科学教育を体験実習から段階的に展開します.

好きなことややってみたいことを自分から言える学生には,当研究室の方針はよく合うと思います.

3年次以前

当研究室の専門領域のことを知る上で,以下の科目の内容は参考になります.

当研究室の専門領域での卒業研究を強く希望する学生には,これらの講義を履修していることが推奨されます.逆に言えば,これらの講義の内容を面白いと思ったならば,当研究室の専門領域との親和性が高く,大学院以降の研究活動に繋がる素地があると思います.また,卒業研修で輪読する技術文書は,これらの科目に関連するトピックから選ばれることが多いです.

前述のとおり,当研究室の卒業研究は狭い意味での専門領域から設定されるとは限りません.従って.これらの授業を履修していなかったとしても,当研究室での卒業研究を遂行することは可能です.また,卒業研究の進み具合と研究上の必要に応じて,これら講義の内容をゼミを通じて学ぶこともできます.ただし,ゼミは講義ではなく,ゼミ形式で進みますので,講義よりも積極的な自習の努力が求められます.

なお,正規のカリキュラムにはありませんが,当研究室の活動に特に興味のある学生になら誰にでも,研究室の門戸を開いています.上野まで個別にお問い合わせください.

研究室体験実習(3年次3・4セメスタ)

研究室は研究をする場所です.その場所を体験するのですから,学生には「研究」を体験していただきます.研究とは人類にとっての未知を公知に変える行為です.当研究室の体験実習では,技術とか知識とか専門性とかはとりあえず一旦脇に置いて,自ら「未知」を探し自ら「公知」に変えるための活動を指導します.それによって,今後どの研究室に行っても通じる,研究に取り組むための心の準備を促します.具体的な到達目標は以下の3点です.

  1. 研究と勉強の違いを理解し,研究のための勉強の方法を知る.
  2. 不知を自覚し,真理を追究する活動を知る.
  3. 研究者と対話し,研究者としての倫理を知る.

体験実習の大部分は教員との個別対談をゼミ形式で進めます.対談の際の話題は学生が自分の興味に応じて自由に決めます.例えば過去には,当研究室の専門領域であるプログラミングやコンパイラはもとより,いじめ問題,交通,デザイン,ストレス,音楽,サッカー,バスケットボール,写真,自動運転,医療などの話題を扱いました.また,教員とのゼミのほか,以下を行います.

  1. 全ての特別講義への原則参加
  2. 研究倫理教育eラーニングコースの受講
  3. 査読体験への参加

卒業研修(4年次1・2セメスタ)

研究の遂行に必要な自習力,語学力,論文の読解能力,およびプログラミング能力を身につけます.当研究室では,卒業研修の期間は,言葉のとおり,研究に入る前の研修の期間と位置付けています.具体的には,週に2時限のゼミ時間を確保し,以下の取り組みを行います.

  1. 輪読ゼミ:英語で書かれた論文などの技術文書を輪読形式で読み,その内容を議論します.
  2. プログラミングゼミ:関数型プログラミングを自主的に学び,その経過を定期的にチェックします.
  3. 研究ゼミ:卒業研究に向けてのテーマ決めに備えて,各自の興味や自主的な研鑽の履歴を掘り下げ,知能情報システムに関する研究に繋がるテーマを模索します.

輪読およびプログラミングでは,英語の文法書,英和辞典,プログラミングの教科書を利用します.使い慣れたものがあればそれを使いますが,なければ研究室で指定するものを用意していただきます.それらを資料として活用しながら,和訳しない英文の読解技術,形式的な議論の運び方,および演習を超えたプログラミングを身につけます.

なお,研究室での活動には,主に各自のノートPCを使用します.必要に応じて研究室備品のPCを貸与します.

卒業研究(4年次3・4セメスタ)

卒業研修期間から夏休みにかけて考えた各自の興味や経験に基づき,教員と相談しながら,その自由な興味や発想を知能情報システムの中に位置付けることを試みます.その上で,研究テーマの方向性を決めたのち,卒業を目指した研究に各自で取り組みます.

当研究室では,教員が持っているテーマを選ばせたり,先輩の研究を引き継いだりすることは,原則としてありません.あくまで原則ではありますが,学生が自分の好きなことにこだわることができ,かつそれを知能情報システムの中に位置付けられるまで,調査・自分探し・ヒアリングを続けるのが,当研究室の立場です.

「研究」という行為は本質的に厳しく,辛く,孤独な体験を含みます.他人に与えられた思い入れのないテーマでは,それらに打ち勝つことができません.自分で課題を発見し好きなことに徹底的に打ち込むことでそれらネガティブな側面すらも楽しむ,というところに研究の醍醐味があり,そういう体験を大学で得たからこそ,未知に立ち向かう知的な姿勢が得られるものと,当研究室は信じています.

なお,知能情報システムプログラムの卒業研究は卒業「研究」であって卒業「制作」ではありませんので,アプリを作ってみた系の話は,そのアプリを作る行為そのものが前人未到の挑戦でない限り,卒研テーマとしては選べません.ご注意ください.

これまでの卒業研究の概要は研究室メンバーによる論文・発表をご覧ください.

大学院

大学院では,当研究室の専門領域であるプログラミングおよびプログラミング言語に関する未解決の課題を,「自主的に・無節操に・楽観的に」をモットーに深く探究します.プログラミングに関わる面白そうな話題であれば何でも対象とし,とりあえずできると思って取り組み,独創的で国際的な外部発表に繋がる成果を上げることを目指します.これらを可能とするため,大学院への進学を希望した段階から,各学生の興味について慎重なヒアリングおよびテーマとのマッチングを行い,テーマ決定後は研究・開発を遂行するための基礎を学ぶ自主的な活動を促します.並行して研究ゼミや輪読を行い,密度の高い研究を行います.

当研究室では原則として,学部の卒業研究と大学院での研究活動の連続性を考えません.学部の卒業研究とは異なり,修士や博士の学位には,ある程度の学術的な貢献と技術的な深さが求められます.特に本学大学院では学位取得の条件として外部発表を課していますので,学術会議での発表ができる内容を研究するのが,大学院で学生が取り組む研究の第一条件です.卒業研究の延長ではこれらの条件をクリアすることができません.卒業研究と関連のあるトピックを大学院で選ぶことはできますが,当研究室では進学の段階で一旦リセットし改めて考え直すのが原則です.

大学院での活動には高い自主性が求められます.学生から見れば,教員に手取り足取り教えてもらうのではなく,自分で考え自分で歩んだ結果を教員に評価してもらい軌道修正していく形で,大学院での教育は進みます.大学院は学術研究を行う教育機関ですから,そこに所属する者は,たとえ学生であっても,一人の独立した研究者としてのあり方が,課程に応じた水準で求められます.従って当研究室では,大学院生は,学生であると同時に同じ研究の道を歩む同僚でもある,と考えています.教員と共に論文を執筆し,プレゼンテーション能力を磨く機会も多くあります.

能力が高く意欲のある学生には,SML#プロジェクトへの積極的な参加など,当研究室だからこそ取り組める高度なプログラミング経験を積むことができます.

これまでの大学院生の研究活動については,研究室メンバーによる論文・発表をご覧ください.

研究室の様子

学生居室の様子

学生ひとりひとりに,パーティションで仕切られた140cm幅の広い机を1つ割り当てます.当研究室はソフトウェアの研究室のため,巨大な装置や実験室を必要としません.その分,研究室に割り当てられている空間の多くを,学生が快適に研究に集中できる環境の整備に振り分けています.

ゼミ室の様子

普段のゼミは,広いホワイトボードを壁一面に備えた最大10人が着席できるゼミ室で行っています.大きなスクリーンに各自のPCの画面を投影しながら,またホワイトボードで複雑な計算を展開しながら,論文や教科書を輪読をしたり研究について議論を深めたりします.なお,当研究室ではすべての居室の壁面にホワイトボードを備え付けています.

休憩スペースの様子

広くはありませんが,食事を温めたり飲み物を入れたり,軽く横になったり談笑したりできる,休憩スペースを用意しています.研究に疲れた時の一休みや,メンバー間の交流を深めるために利用します.日本海を臨む眺めも良く,天気が良い日は佐渡が見えます.